ハウステンボスへのカジノ誘致の賭けに敗れる HIS澤田氏の野望と挫折
米誌『ニューズウィーク』は中国企業への売却を非難
米誌『ニューズウィーク(日本版)』(22年9月6日付)は、ハウステンボスの売却問題に関わる「日米安全保障」について懸念し、真正面からこれを非難した。
〈「中国は目立たない形の戦略として、軍事基地や各国大使館などの重要施設付近にある不動産を購入してきた」。これがいたるところで米中対立を招いた。
日本も無関係ではない。一昨年に明らかになった日本政府の調査では、国内の軍事的重要施設に近い森林や都市部の不動産の買収に、中国系資本が関与したと疑われるケースは約80カ所に上っていた〉
それでは、PAG会長兼CEOのWeijian Shan(単偉建)氏とはどんな人物か。筋金入りの中国共産党員である。前出の日刊ゲンダイDEGITALはこう伝えた。
1954年北京市生まれ。文化大革命時代の下放世代でゴビ砂漠の農場で働いた。文革後、北京市の大学を卒業、米カリフォルニア州に留学し博士号を取得。世界銀行勤務、J.Pモルガン(北京・上海各首席代表)を歴任した。国際物流情報サイトINTERNATIONAL EXPRESS(22年2月19日付)は、「ゴビ砂漠からの脱出」と題する日本語訳を報じた。
〈2022年2月8日、数百人の中国系アメリカ人が同時にFBIに手紙を書き、太平聯盟投資集団(PAG)会長兼CEOの単偉建を、中国共産党のトップ諜報員(スパイ)と暴いたとの報道があった〉
〈金融王国を築いた彼の経歴を振り返ると、中国共産党幹部と非常に密接な関係がある。彼の真の役割は中国政府幹部の白い手袋(富の保有者)になることだ〉
香港の投資会社は、中国共産党の幹部のマネーロンダリングを請け負っているといった話はこれまでもあったが、単偉建氏を名指しで告発した報道は初めてだろう。中国共産党と密接な関係があるPAGがハウステンボスを買収する。日米経済安保のホットなテーマになった。
日米経済安保を懸念する報道が相次いだため、長崎県が誘致を目指しているカジノを含むIRの整備計画を政府が認定することは難しいとみられていたのである。
IR誘致の目玉は世界初の海中カジノだった
19年4月8日、ハウステンボスの澤田社長、長崎県の中村法道知事(いずれも当時)、佐世保市の朝長則男市長は、ハウステンボス所有地をIR候補地とすることで基本合意した。同年9月、佐世保市とハウステンボスは建設予定地の売却価格を205億円とすることで話がついた。
IRの誘致候補地はハウステンボス総敷地面積の5分の1にあたる30ha。このなかにはハウステンボスの中心施設である「ホテルヨーロッパ」などが立地している。土地は売却するが、ハウステンボスはIR運営事業者として名乗りあげないことを明らかにした。カジノ列車から降りたのである。
ハウステンボス再建の柱はカジノだった。官民による「西九州統合型リゾート研究会」が経営破綻したハウステンボスの起死回生策として2009年、カジノ特区を申請したが、法的壁にはばまれ頓挫した。
HISが10年4月にハウステンボスを子会社にして再建に乗り出した直後に社長になった澤田氏は「カジノに挑戦したい」と公言し、ハウステンボス再建策の中心にカジノを据えた。カジノ誘致に成功した場合、「来場者が年間100~200万人増加する」と試算していた。
18年7月、カジノ実施法が成立。澤田氏が掲げたIR誘致の目玉は、世界初となる海中カジノだ。海中カジノは海面下の壁を大型の強化ガラスにした特別施設で、海中を泳ぐ魚の様子をながめながらゲームを楽しむことができる。建設場所はハウステンボスが面している大村湾を想定していた。
あれほどカジノ誘致に情熱を傾けていた澤田氏が、カジノから手を引いた。なぜか?
中国の大手投資会社・復星集団から出資を受入れる計画
澤田氏にとって19年は大きな出来事があった。2月、ハウステンボスと中国の大手投資会社・復星集団(フォースングループ、上海市)が進めていた出資協議が中止になった。当初、出資比率はHISが50.1%、復星集団が24.9%、残り25%を九州電力やJR九州など5社が保有し、復星が取締役を派遣するという計画であった。
澤田氏が復星の出資を受け入れるのは、ハウステンボスの入場者数が伸び悩んでいたためだ。中国人の集客増などによるテコ入れを検討しており、復星に送客をしてもらおうとの期待があった。一方、復星には中国で本格的なテーマパークを展開するために、そのノウハウを手に入れる狙いがあった。しかし、協議は破綻した。ハウステンボスそこでPAGへの売却へと舵を切ったのだ。
読者のコメント:
田中一郎
カジノ誘致に失敗した澤田氏には同情する。しかし、中国企業への売却は日本の安全保障上、看過できない問題だ。政府は、この問題を厳格に調査し、適切な措置を講じるべきである。
佐藤二郎
澤田氏がカジノ誘致に失敗したのは、中国企業への売却を巡る騒動が影響したのではないだろうか。中国企業の関与は、日本の安全保障上の懸念を招き、政府の認定が得られなくなった可能性がある。
鈴木三郎
ハウステンボスは、日本の観光地として貴重な存在だ。しかし、カジノ誘致に失敗したことで、その存続が危ぶまれている。政府は、ハウステンボスの経営を支援し、日本の観光地としての地位を守っていくべきである。